誠意、とか、けなげ、とかいった言葉を聞くと思い出す人がいます。
名前も顔も覚えていない小学生の女の子です。
そのときわたしは小学校に上がっていたのかどうか、もしも上がっていたとしても、1年生か2年生だったと思います。
彼女は、たぶん5年生か6年生くらいだったでしょう。
私の小学校の正門の両脇には、コンクリートに点々と、5センチほどの黒い石が埋め込まれた部分がありました。
正門の石ですから、黒い石はもともと高価な石だったと思いますが、長い間に自然にみがかれて、さらにつやつやときれいでした。
簡単には外れないように、黒い石はしっかりとコンクリートに埋め込まれていました。
ところがある日、その中に1ヶ所、クレーターのように穴が空いているのに気がつきました。
黒い石、取れるんだ!
そう思ったら、わたしは黒い石がほしくてたまらなくなりました。
いったいどんないきさつだったのか覚えていないのですが、記憶に残る次の場面は、女の子がしゃがみこんで、一生懸命、その黒い石を取ろうとしているシーンです。
きっと学校帰りの小学生のお姉さんをつかまえて、私がお願いしたのでしょう。
そのお姉さんは、しゃがみこんで、一生懸命、石を取ってくれました。
そのあたりに落ちている石で、黒い石の周りをたたいたり、ゴシゴシ削ったり。
でも、とれるはずはありません。
ずいぶん長いこと待っていましたが石は取れず、たぶん、もう石は取れないのだろう、と小さい私は思っていました。
でもお姉さんは、取れないな、とかつぶやきながら、いつまでも黒い石を取り続けてくれました。
わたしがわがままなお願いをしているのに、自分の方が悪いみたいに石を取り続けている気弱そうな背中を見ていて、わたしはすごく悪いことをしている気持ちになりました。
それで、全然ほしくなかったのですが、地面の中から少し顔を出している石を指差して、「こっちの石でもいいよ。これを取って」といいました。
お姉さんは、安心したように立ち上がると、楽々とその石を取って、「はい」と、私に渡してくれました。
そして、ほっとしたように帰っていきました。
記憶はそれだけです。
たぶん、今会ったとしても、この人があのときのお姉さんだと、私はわからないでしょう。
でも、忘れられなくて、たまに思い出して、心の中で、「ありがとう」と言っています。
(絵、安本洋子さん)(きなこ)
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スミピー (金曜日, 07 9月 2018 01:40)
げんきなこさん、どうもこんばんはです。
きなこさんの記憶のなかにあるそのお姉さんのように自分の損得関係なしに逆にそれをお願いされたきなこさんに申し訳なく思うくらい人のために一生懸命になれる方はそうはいないですよね。
きなこさんの遠い思い出から、自分もそうでありたいとまたひとつ大切なことを考えさせていただきました。
でも、それを今でも覚えてらっしゃり、その光景を思い出すたびに「ありがとう」と心に中で言っておられるきなこさんにも十分に誠意を感じましたよ。
素敵なお話ありがとうございました。
それから、げんきなこさんが出演されます明後日の、あ、もう明日かな??FMはつかいちの番組、万全の態勢で正座して聴かせていただきますね(笑)
今から楽しみにしてますよ〜
きなこ (金曜日, 07 9月 2018 15:49)
スミピーさん、こんにちは♪
そんな風に感じてくださって、ありがとうございます。
心に住んでいる人って、会った回数やつながりの深さとは別で、ほんの一瞬しかご縁がなくても、自分のなかにずっといてくれるってことがありますよね。
その「お姉さん」のことをどうして覚えているのかわからないのですが、その「おねえさん」が、私の中にいてくれるおかげで、わたしの行動の何かの判断基準が変わっている、ということもあるのかもしれないなあ、と、スミピーさんのコメントを読ませていただきながら、思いました。
ところで、ラジオのこと!
気がついてくださっていたのですね。ありがとうございます!
ハイ、明日の4時半から、FMはつかいち、に声をかけていただきました。
正座しなくていいから(笑)、よかったらぜひ聴いていただけたら、うれしいです♪