写真に撮った絵

数年前のことですが、どういういきさつでだったか、弟が父の絵を写真に撮りました。

写真に撮った父の絵は、父の絵なのですが、かなり雰囲気が変わって見えました。

その変わりように、驚きました。

父の絵の実物より、写真の方がよかったのです。

弟の写真の腕がいいのかな、と思いました。

今日、なんとなく思い出して、弟が撮った父の絵の写真を引き出して見ました。

一枚一枚見ていたら、なぜかわからないのですが、なんだか胸が痛くなりました。

弟の目を通した父の絵。

いつだったか、父が「最近手が震えて、もう細かい線は描けなくなった」と、ぼそっと言ったことがありました。

弱音を吐かない父の言葉は、聞いてはいけないことを聞いてしまった気がしてドキドキして、「ルノアールは、腕に絵筆をくくりつけて素晴らしい絵を描いたらしいよ」なんてことを明るく言ってお茶を濁し、父もそれ以上言わず、話題が変わったように覚えています。

いつも肝心なことには触れず、遠回りしている親子。

島の人間は、恥ずかしがり屋で不器用なのでしょうか。

父と弟は男同士、私以上に肝心なことを言いあわない親子です。

でも、父の絵の写真を見ていたら、弟の思いを感じたような気がして、今夜、なんだか胸が詰まっています。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（絵、平川玲子さん）　（きなこ）